どうしても瘦せたい人必読!
不完全拒食マニュアルとは?
瘦せられる理由、瘦せられない理由がわかる!
そういえば『思春期やせ症の謎』(ヒルデ・ブルック)(註4)という本に、瘦せ姫のこんな言葉が出てきます。
「私は切手をなめることさえしません。切手の糊のカロリーについて知っている人はいないと思いますけど」
これについてブログに書いたところ、相通じるコメントが寄せられました。
「薬の糖衣錠のカロリーが気になってました」「リップクリームさえ塗れませんでした」
もちろん、人間は常に快楽を必要としていますから、その禁欲には見返りも必要です。拒食脳が喜ぶのは「瘦せたね」「うらやましい」「大丈夫?」といった言葉や、減っていく数字、サイズダウンしていく服、そして、食欲という本能を制御できているという自信だったりします。こうした見返りのおかげで、瘦せ姫は一般人の数分の1の栄養で、人並み以上に運動したりしながら、極細の体を手に入れることができるのです。
しかし、拒食脳の働きを妨げるものも世の中には少なくありません。もっと食べさせようとする家族や友人、入院させてでも体重を増やそうとする治療者……。これに対し、瘦せ姫は弁当や菓子を捨てたり、体重測定の際におもりをしのばせて数字をごまかしたりという方法で抵抗します。
ただ、それはたとえ成功しても、良心の呵責(かしゃく)をもたらし、瘦せようとしている自分は悪い人間ではないのかという不安を生じさせることに。瘦せることが安心や救い、生きがいのようになっている瘦せ姫にとって、つらい葛藤の始まりです。
また、自分の体も拒食脳に反発してきます。人類の歴史は長年、飢餓との戦いでしたから、ある程度の空腹には耐えられるものの、食欲がゼロになることはありませんし、低栄養に対応すべく、代謝が低下していって、体重が減りにくくなります。
それでも「食べなきゃ瘦せる」を極めていけば、体重もさらに減るかというと……。そうでないこともあります。その現象は、瘦せ姫にとって最大級の恐怖といえるかもしれません。いわゆる「浮腫(むく)み」です。
原因はもっぱら、たんぱく質の不足。本来、この栄養素を摂らなければ筋肉まで落ちるため、まさに「骨と皮」のようになるはずなのですが、低たんぱく血症が起きると、水分が排泄されなくなり、浮腫むのです。
フラミンゴのようだった脚が突然、象のような脚に変わってしまうこともあり、もちろん、体重も増加。しかも、解決策は「食べること」なのですから、ある意味、瘦せ姫には絶望的な状態です。
こうした状態を避けるには、たんぱく質を少量でも摂り続けることでしょう。肉や魚に抵抗があれば、豆腐や豆乳が効果的です。大豆のイソフラボンは女性機能の維持にもよいとされているので、生理を止めたくないタイプの人にも有効です。
さらに、たんぱく質の不足は低血糖症の原因にもなります。症状としてはめまいや意識障害、ひどいときは昏睡から死にもつながりますが、もうひとつおそろしいことが。それは、空腹が強まるということです。
つまり、過食に転じるきっかけになりやすいということ。瘦せ姫はよく「過食のスイッチが入る」という表現をしますが、これが繰り返されるようになるともう、制限型で瘦せることはちょっと困難になります。
そこで、体重の増加、すなわち太ることを受け入れるのか、さもなくば……。
というわけで、次は排出型の拒食の話です。(この続きは明日、BEST TIMESで!)
(つづく……)
(註1)『完全自殺マニュアル』鶴見済(太田出版)
(註2)『クローズアップ現代 ニッポンの女性は„やせすぎ“!?』2015年10月5日放送(NHK総合)
(註3)ボディマスインデックスの略。体重(㎏)÷身長(m)の2乗によって算出され、肥満度の判定に用いられる。
(註4)『思春期やせ症の謎―ゴールデンケージ―』ヒルデ・ブルック(星和書店)
※BEST TIMESコラムにて明日も「つづき」記事を公開!
【著者プロフィール】
エフ=宝泉薫(えふ=ほうせん・かおる)
1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』などに執筆する。また健康雑誌『FYTTE』で女性のダイエット、摂食障害に関する企画、取材に取り組み、1995年に『ドキュメント摂食障害—明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版。2007年からSNSでの執筆も開始し、現在、ブログ『痩せ姫の光と影』(http://ameblo.jp/fuji507/)などを更新中。
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